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環未境来学の予測    火山噴火は日本で頻発する主要な自然災害の一つであり、気象災害等と比べて予測が困難な災害です。前兆現象が観測される場合もありますが、前兆現象がないまま噴火に至るケースや前兆現象があっても噴火に至らない「噴火未遂」も多々あります。前兆現象の種類、規模、時間スケールもまちまちで一般に噴火規模に比例しません。そのため噴火の発生や規模・様式等を高い確度で予測することは現状では困難です。また噴火は単発で終わらない場合も多く、噴火の推移予測や終息の予測も難題となっています。一方、既に起きた火山現象を様々なデータに基づいて解釈すること(評価)は予測に比べれば現実的に達成しうる目標であり、火山を対象とする理学研究の多くはこの評価を直接的な目標として行われます。マグマの上昇や水蒸気の生成など噴火に至る過程は地下で起きるため直接観察できません。そこで、地震観測、測地観測、電磁気観測、熱観測、火山ガス観測、噴出物分析など多様な手段を駆使して地下で起きた現象を推測します。噴火だけでなく火山地域で発生した地震活動等も研究の対象になります。これらの研究では計算機を駆使します。特に地震波の解析では1観測点につき毎秒100サンプルという膨大なデータを扱うため計算機が不可欠です。地震波解析の目標は大きく「ソース」と「構造」に分けられます。ソースの解析では地震波の到着時刻や振幅、その他波形の様々な特徴を用いて地震や微動等が発生した位置、それらを引き起こした力の組合せとその時間変化、周波数構成(スペクトル)などを推定します。構造の解析では観測点間の地震波の到着時刻差や波形の類似度合(相関係数)などを用いて地下の地震波速度構造を推定します。研究手法の多くは逆問題になっており、ソースと構造を与えてシミュレートした地震波の到着時刻や波形等の予測値が観測データと合うようにソースや構造を推定します。そのため理論計算の精度が要求され、ソースと構造のうち一方がよくわかっていないと他方が精度良く求まらないという難しさがあります。得られたソースや構造の情報は火山地下におけるマグマや火山ガス等の流体移動を推定するためのヒントになります。こうした研究を積み重ねて火山地下の流体移動の描像をアップデートしていくことで将来的に火山活動予測にもつながるのではないかと考えられます。前田 裕太専門は地震波解析。特に火山地域で観測される特異な地震波のソース解析を中心に、解析手法開発を含めて取り組んできた。近年は機械学習による地震検知や、地下構造研究にも着手。地震火山研究センター 前田 裕太 講師地震波解析で挑む火山活動予測・評価

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