編集後記● 名古屋大学環境学研究科と関係の深い真鍋淑郎先生が2021年ノーベル物理学賞を受賞されました。このニュースを受けて、今回のテーマは「計算で挑む環境予測・評価」に決定し、気候変動・温暖化・計算機・モデル等をキーワードとして、各専門分野の先生方にご自身が取り組まれている研究について語って(又は執筆して)いただきました。エコラボトークでは、真鍋先生の人柄や受賞対象となった研究の背景についても語っていただきました。ちなみに、真鍋先生は「環17号」のエコラボトークで対談されておりますので、ぜひご覧下さい。今回、国立環境研究所に所属される2名の客員教授にも執筆していただきました。本研究科では、外部の研究機関とも連携して学生の指導を行っています。 (中川 書子) 国際政治学を専門とする山田高敬教授のもと、近藤悠生さんは気候変動と国際政治学をテーマに、なかでも気候変動分野における先進国の途上国支援に着目して研究に取り組んでいる。独力で脱炭素化することが資金的にも技術的にも難しく、近年では海面上昇や洪水など気候変動の脅威にさらされる発展途上国。それらの国々に、先進国が支援の手を差し伸べる条件は何か。支援が国の利益になるから、気候変動は先進国にとっても脅威だから。単純にそれだけで支援に向かうだろうか。そこで近藤さんは「先進国の支援は気候変動の脅威にさらされる途上国への「共感」が必要」という仮説を立てた。 具体的には、EUと日本の現状の途上国支援を評価するとともに、途上国に対する共感が発生しているかを官公庁、経済団体、環境NGOなどへのインタビューや、政府、民間企業等の文書に対するテキストマイニングによって確認しようとしている。はたして「共感」を生み出すには何が必要なのだろうか。「国の中枢にいる官僚や政治家だけでなく市民団体や研究者など、外側にいる人たちの存在が重要ではないか」と近藤さん。市民社会が大きな影響力を持つEUを対象にしたのも、それが「共感」を発生させやすいのではと想定したからだ。そして日本は、気候変動への危機意識すら薄いと感じている。「焦りますね」。 気候変動について一人一人が自分事として考えること、自分の生活だけでなく社会を見据えて気候変動に無責任な企業に声を上げること、そして子どもたちへの教育。気候変動問題を解決するために向き合うべき課題は山積している。「研究していると、世の中が今まさに動いていると感じられる、最も熱いテーマ。楽しい反面、日本の動きが遅いことも痛感する」。 一見、情緒的に感じる「共感」と国際政治だが、「結局は国家も一人一人の人間の集合体。従来の枠にとらわれず、心理学、社会学、経済学など他の分野の知見も集めた新しい考え方で理論をつくりたい」と奮闘している。社会環境学専攻 環境法政論講座 博士後期課程1年近藤 悠生さん Kondo Haruki2022年9月【環・43号 広報委員会】 中川 書子(環43号編集委員長)加藤 博和(広報委員長)熊谷 博之小松 尚〒464-8601 名古屋市千種区不老町 名古屋大学大学院環境学研究科TEL.052-789-3455www.env.nagoya-u.ac.jp/伊賀 聖屋増沢 陽子谷川 寛樹編集/編集企画室 群デザイン/オフィスYR名古屋大学大学院環境学研究科名大くんが行く31
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