HTML5 Webook
8/12

(Nature-based Solution, 地球上で生物が生息する領域の全体を生物圏(バイオスフェア)という。生物圏の存在は地球システムの大きな特徴であり、宇宙ステーションなどごく一部の例外を除けば、人間の生活はすべて生物圏の中で行われている。持続可能な社会を考える上で生物圏の役割は無視できないものであり、私たちの未来を予測することは生物圏の未来を予測することと不可分であろう。生物圏は人間社会に様々な便益をもたらす一方で、森林破壊や気候変動の影響に対する回復力(レジリエンス)を持つことが注目される。最近では、自然つまり生物圏の機能を活用した気候変動を含む環境問題への対策心が高まっており、その実用化に向けた研究が進められている。しかし生物圏は動物、植物、微生物など多様な生物で構成され、それらの間の相互作用で成り立つ極めて複雑なシステムであり、その全容を理解することは大きなチャレンジである。NbS)への関生物圏をデジタルの世界に再現することで、その営為を理解して予測を行い、ひいては対策に役立てられるかもしれない。そのような着想のもと、生物圏をシミュレートするモデルの開発を進めてきた。特に重要なテーマとして、気候システムにおける生物圏の役割を解明し温暖化問題の解決に寄与するため、二酸化炭素やメタンなど温室効果ガス収支の推定がある。植物の光合成から始まって呼吸で大気に二酸化    炭素を吐き出す、自然界では数百年かかる生態系の成長プロセスを、現在ではパソコンで数秒のうちに再現することができる。それでも、地球全体を数万の格子でカバーし、環境変化や人間活動も考慮した計算を行うのは大仕事であり試行錯誤も多い。そこで得られた生物圏の温室効果ガス収支に関する研究成果は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書への引用などを通じて対策に役立てられようとしている。昨年からより高度な生物圏モデルを開発するプロジェクト・学術変革領域「デジタルバイオスフェア:地球環境を守るための統合生物圏科学」を開始した。生物圏のメカニズムを分子生物学から地球観測にわたる学際的研究によって掘り下げ、地球全体を数千万の格子で覆う詳細なモデルへと統合していく野心的な課題である。そして、生物圏のはたらきや環境変動への応答をこれまでになく高い精度でデジタルの世界に再現し、未来予測を実現することをめざしている。地球・都市・社会3つの視点で「これから」を考えます。今回のテーマは 計算で挑む環境予測・評価未来予測環境学の伊藤 昭彦博士(理学)。専門は生態学、生物地球化学。陸域生態系の物質循環および微量ガス交換に関する数値モデルを開発し、地球環境に関する研究を行っている。現在の本務は国立環境研究所 物質循環モデリング・解析研究室 室長。VOL.31氷河の行く末を予測する生物圏の未来を予測する地球環境科学専攻 大気水圏科学系 伊藤 昭彦 客員教授地球環境科学専攻 気候科学講座 藤田 耕史 教授

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る