高野齋藤 上村今回は環境学研究科が取り組む地球規模課題「10課題」の8番目、「環境と人間のウェルビーイング」について、世話人のお二人の先生に来ていただきました。都市環境を研究している者としては、興味深いテーマです。まずこのテーマについてのお考えを聞かせていただけますか。環境という言葉は多義的で、環境学研究科にも、人間の居住環境から生物の環境、さらに地球環境まで、さまざまな研究をされている先生方がいます。私は社会学なので、環境も大事ですが、社会も大事です。福祉社会学や比較社会政策の分野で、貧困・不平等、仕事や福祉の問題に関心を持って取り組んできました。しかし近年、気候変動の問題がこれだけ深刻になってくると、まさに社会学の問題として、我々の暮らしている社会のシステムと環境の関係を捉えていく必要があると考え始めました。SDGs(持続可能な開発目標)を見ても、環境に関するテーマと社会政策で扱うようなテーマの両方が入っています。2030年アジェンダの前文では、環境問題に対する緊急の行動が必要というだけでなく、「誰ひとり置き去りにしないことを誓う」と言っている。つまり、貧困や不平等の問題も置き去りにしないということです。ですから、環境に対する取り組みと人間のウェルビーイングに関する取り組み、その両方が人類の課題であり、それをどう両立させるかを環境学研究科でも考えていかなければならないと思います。私の専門の地球科学には「地球システム」という考え方があって、「生命と地球の共進化」と言うのですが、無機的な水とか大気、そういう環境と生命は相互に作用しながら進化してきた。その過程で人間が生まれ、今や「人新世」と呼ばれるように、人間が環境を変えるような力を持った。でもこれもあくまでも生命と地球の共進化の一幕であるという捉え方をするんですね。その中で、たまたま、我々は今の地球に生まれて、かなり大きなプレイヤーとして存在している。その意味って何だろうと考えたとき、「環境と人間のウェルビーイング」というタイトルは非常に刺激的で、相互作用の中で存在するならば、今、環境と人間の関係がおかしくなっているから、人間だけのウェルビーイングを追求しても無理で、環境と人間ともにウェルビーイングになることを模索する。あるいは環境と人間との関係をウェルにする。この課題はそういうコンセプトだと思っています。齋藤 上村 「ウェルビーイング」について少しご説明いただけますか。ウェルビーイングの語源はギリシア語の「エウダイモニア」で、魂が良い状態にあることを意味しています。良き人生といったことで、幸福とほぼ同義です。アリストテレスも『ニコマコス倫理学』で、幸福な人生とは何だろうかと問いかけ、持続可能な幸福について論じています。日本ではウェルビーイングと言うと、個人の生き方についての精神論として展開されたり、企業の業績と関連づけて経営論として語られることが多いのですが、私の専門の社会政策の観点から言うと、人々の良き人生を支える社会制度の設計が重要です。よく引き合いに出されるのが、仕事、関係、お金、身体、地域というウェルビーイングの5つの要素で、これはギャラップ社が挙げている項目です。人生にとって本当に大事「ウェルビーイング」になる環境と人間、ともに道筋はウェルビーイングを支える社会制度必要なのは 高野 雅夫 たかの まさお専門は地球環境システム学。中山間地域の地域再生を研究・実践。主な著書は『自然(じねん)の哲学』(ヘウレーカ、2011年)『人は100Wで生きられる』(大和書房、2021年)など。
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