環境学と私

このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

幻のサンゴの海

地球環境科学専攻 大気水圏科学系
渡邊 剛 客員准教授


僕がサンゴ礁という世界に出会ったのは小学校の時のことです。

当時、福岡の小学生だった僕は、親の勧めで少年の船というものに乗って、沖縄を目指す航海に参加することになりました。事前学習でサンゴ礁の海には靴を穿いて入らなくてはならない、触ってはいけない危険な生物がうようよいる、ということを教えられ頭の中で想像が膨らみました。実際には、台風の接近で沖縄には行くことができずに能登半島に進路が変更になりました。小さい僕にはそれはそれは残念でした。

サンゴ礁と地球環境という研究テーマで、熱帯から亜熱帯までの世界中の様々な地域や国の海域で潜って生きているサンゴや砂漠地帯や山岳地帯で化石となったサンゴを探す旅に出ていますが、一番、印象に残っているサンゴの海はと聞かれると、少年時代に頭の中で妄想した幻のサンゴの海と答えると思います。サンゴ礁は、様々な時空間スケールにおいてとても複雑で、未だに人類がその全貌を理解するには程遠く、研究を続けていく上では困難の連続ですが、やり続けられているのは、子供時に頭の中に出現したサンゴ礁が今でも輝いてくれているからかもしれません。

サンゴは、石灰質の骨格を形成し、生物多様性を支える基盤であるサンゴ礁のもとを造りますが、それは年に一回の産卵に始まります。生まれたてのプラヌラ幼生は動きまわり、定着する場所を探しますが、着底すると分裂を繰り返し群体となり、時には、数百年間も骨格を成長させます。その間、様々な環境の変化に影響されまた敏感に反応していきます。我々、研究者は、サンゴの骨格の履歴を解析し刻まれる年輪に沿って化学組成を分析することで、当時の環境変化を詳細に復元します。

今年の冬に、僕は能登半島のとある港にいました。約一年前の地震の隆起に伴って海底が持ち上がり、そこに造礁サンゴが群生しているのが発見されたためです。地球温暖化の影響が能登半島にまで達しているのを目撃して研究者としてドキドキしたのと同時に、子供の時に、沖縄から進路を変更されて不貞腐れてあるいていた当時の少年の時の僕の心情ともかさなり、不思議なものを感じました。

能登半島で発見されたサンゴ(キクメイシモドキ)

(わたなべ つよし)