環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。
土壌から森林をみる

地球環境科学専攻 地球環境システム学講座
林 亮太 助教
本教員のプロフィール
森林には多くの樹木が立ち並び、そこには無数の動物や微生物が暮らしています。その足元にある土壌はこうした豊かな生態系の基盤になっています。
土壌のはじまりは岩石です。長い年月を経て岩石が物理的・化学的に風化してできた砂や粘土が土壌のベースです。そこに植物が根を張り、葉を落として有機物を供給し、それらを食べて分解する動物・微生物たちが加わることで土壌が生み出されます。このように、土壌の研究はさまざまな分野が交わる、まさに総合科学の舞台なのです。
なかでも私が注目しているのは土壌有機物です。イメージとしては、腐葉土やたい肥のような、ただの枯れた葉や根ではない、動物や微生物の営みの中でそれらが変質したものです。土壌有機物にはさまざまな機能があります。例えば、土壌に隙間を作って空気や水の通り道を確保したり、植物に必要な養分を蓄えて供給したり。さらに、土壌有機物は炭素を主成分とするため、炭素を地下に隔離する機能もあり、脱炭素社会の鍵を握る存在でもあります。
私はこれまで、日本のスギやヒノキの人工林(その花粉は私の天敵・・・)を対象に、土壌の酸性が土壌有機物に与える影響を明らかにすべく研究を進めてきました。土壌の酸性が強いと、農林業の生産性に悪影響を及ぼすことが知られています。酸性が強い土壌と弱い土壌に含まれる有機物の量や質を比較することで、酸性が強い土壌でも、人類が期待するような機能が維持されるのかを探り、持続的な林業に貢献したいと考えています。
実は、学生時代に研究室配属された当初は、今とは違う研究テーマを思い描いていました。しかし、研究をいざ進めるという時期に、ちょうどコロナ禍などさまざまな制約を受け、このテーマにたどり着きました。そのおかげで土壌有機物に出会うことができましたし、苦しい中でもご指導・ご助力くださった当時の担当教官には感謝してもしきれません。
目には見えにくくとも、命があふれる足元の土壌を丁寧に見つめ続けることが、森林と人のより良い関係を築くための一歩になると信じています。

(ハヤシ リョウタ)