環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。
環境学と製造業の現場から

社会環境学専攻 地理学講座 2012年度修了
株式会社ワーロン 取締役 渡辺 友莉
家業の和風内装材メーカーで働く日々は、気候変動による猛暑、原材料費や為替の変動、人手不足、防災対応など、環境要因と切り離せません。こうした現場で何かを解決しようとすると、環境学で学んだ多角的なアプローチ方法が息づいていると感じています。
大学院では地理学講座で外資系企業の立地研究に取り組みました。中小企業の家業のせいか、合理的な企業立地決定の背後にある、既存の取引や地域要因がどう影響するのかに関心を抱いたからです。地理学は地表上の諸現象を環境や空間的視点から解明する学問であり、国内外のフィールドワーク実践を通じて「現地現物」の大切さを身につけることができました。特に、利尻島での初めての自主調査で出会った島民の方が語った「群来(くき、ニシンなどの魚が群れで大量に押し寄せること)」の話は忘れられません。「くっき」と発音された「群来」の意味を理解した瞬間、その方の暮らしや歴史が鮮やかに立ち上がり、調査の向こうに確かな人の存在を実感することとなりました。この感覚は研究科でのインタビュー調査にも活かされ、合理的な立地選定の中でも人との繋がりで外資系企業が進出するような事例の背景理解に役立ちました
「現地現物」の姿勢は、今でも私の行動原理です。製造や営業、組織運営の現場での事象を自ら確かめ、顧客の声を受け止めることが製品提供の基盤となりますし、研究科で幅広い分野に触れた経験は、日々の仕事での思考と実践の切り替えに直結しています。原材料の一つとして和紙を使用していますが、新商品開発のために複数の和紙産地を訪問した際、これはフィールドワークそのものだと思い、力が入ったことを覚えています。
環境学研究科は日本初の文理融合型大学院として、複雑な課題に多様なアプローチを可能にし、専門性の違いや産官学の垣根を超える場でもあります。私は現在、研究科修了生ネットワークの構築に関わっており、環境学研究科に関わった全ての方の資産となるよう奮闘しています。一人一人の学びの軌跡が未来へと繋がることを願いながら、これからも環境学の精神を活かしより良い社会づくりに貢献したいと考えています。


(わたなべ ゆり)