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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

海鳥の不思議な行動と海洋汚染の関係

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地球環境科学専攻 生態学講座
庄子 晶子 教授
本教員のプロフィール

野外で生き物を観察していると、不思議に思うことがよくあります。例えば、イギリスのウェールズ地方に位置するスコマー島で繁殖するマンクスミズナギドリを調査していた時に、育雛期に成鳥2羽が巣内で過ごしていることに気が付きました。マンクスミズナギドリは飛翔性捕食者を避けるため、繁殖地では夜行性であり、日中に陸上で過ごすのは抱卵や抱雛のためです。育雛期に成鳥だけで巣内にいるのは不思議でした。陸では餌も取れないため、(一見すると)用事もないし、なぜ日中に巣内にいるのかよくわかりませんでした。さらに、その2羽は翌日もその翌日も巣内に滞在していました。そして、スコマー島だけでなく、北アイルランドのライトハウス島で繁殖するマンクスミズナギドリを調査している時にも、同様に日中に巣内にいるペアを見つけました。足輪情報から、これらのペアはすでに繁殖経験があることがわかり、ますますわからなくなりました。
この観察から、海鳥の繁殖成績を決定する要因について興味を持ち、バイオロギング技術や化学分析、機械学習などを取り入れながら問題解決に取り組んでいます。その結果、ある時期の行動がその次の時期に影響を及ぼす「生態学的キャリーオーバー効果」により、繁殖をせずに巣内にとどまっているという仮説を立てて現在アラスカ州のミドルトン島で操作実験により検証しています。繁殖地には戻ったものの繁殖しなかった個体は、繁殖した個体に比べて、その後の渡りで飛翔時間が長くなったり、越冬期の利用海域が異なることがわかり、これは繁殖期のエネルギー負債が大きかったためであると私達は考えています。さらに、ある時期の行動がその後の行動を変化させるなら、それによって体内に蓄積される汚染物質も異なるのではないかと考え、海洋汚染の問題にも取り組むようになりました。この研究は海洋性渡り動物を環境汚染物質の追跡指標として活用し、どのようなプロセスで汚染物質が海から陸に輸送されるかを明らかにし、人為起源の汚染物質が海洋生態系に与える影響を明らかにすることを目指しています。
(しょうじ あきこ)

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